・清武英利「巨人軍は非情か」(新潮社)
リーグ制覇、日本シリーズ惜敗、そして始まった大型トレード……。
メークレジェンド――。常勝を宿命付けられた伝統の球団。新聞社社会部からその未知の世界に飛び込んだフロントトップが、あまりにも人間臭いベンチ裏を、持ち前の記者的好奇心で観察、時に冷徹に時に情熱的に綴った。今だから書ける「あの時の真相」を多々交え、2008年日本シリーズの「その後」までをも含めた二年間の記録。
【目次】
〈I〉野球は幸せか
「喜」と「楽」のフィールド/数霊の存在/スカウトの時代/トレードと情/挑戦試合/喧嘩野球/「叱られ」オビスポ/「国民打者」へのメール/やっぱりカープじゃけえ/球団支店論/「自衛隊」は怒っている/テストを受けたスカウト/野球の神さん/見栄の捨て時/待つことをしない
〈II〉流れる水は新しい
借助外脳/小笠原家からの手紙/ドミニカ奮戦日報〈前編〉/ドミニカ奮戦日報〈後編〉/技術統合/飛雄馬の穴/百一枚の絵馬/係長が人を創る/日本男児のキャンプ/白いユニホーム
〈III〉金魚鉢の底から
奪い、奪われ/内発的動機/「入り口」と「出口」の間/もう一人のクルーン/天国へのチケット/コーチ道/アジアのあこがれ/ホームランのサイン/監督は眠れない/興行を超えるとき/もっとゲームを――。/努力の音/じゃんけん入社/キミはタザワを見たか/ドーハの教訓/韓国はなぜ勝てたか/若者救済力/感泣の日/幸せセレンディピティ/やってみなはれ/B群育成論/それぞれの「道」
あとがき
本書は「週刊ベースボール」2007年4月23日号から2008年11月24号まで連載されていたコラム「野球は幸せか!」に加筆してタイトルを変えて出版したもので、自分自身も週ベ連載中にはなかなかいいことを書いているなとは思ってはいたんですが、書籍化されたので図書館にリクエストして買ってもらったのを借りて読んだ訳です。
元々週ベのコラムをまとめたものというのもあるんですが、新聞記者出身だけあって、1つ1つのコラムがうまくまとまっています。
この人がフロントにいる限り、巨人は育成と補強のバランスをうまくとり、「育てながら勝つ」という黄金時代になりそうな気が。。。
ともあれ、巨人ファンの人にはもちろんのこと、アンチの方も食わず嫌いせず、一読してみることをおすすめします。一番読ませたいのはどっかのチームのフロントの方々たちなんですけどね。。。。
で、巨人軍は確かに原監督の第一期の辞任に至るいきさつとか、清原に引導を渡すあたりまでは、確かに非情すぎる面がありましたけど、最近ではこの段階でホンダの長野の今秋ドラフトでの1位指名を確約するなど、「情」がある面を見せているではないかと思いますよ。
以下、気づいた内容をピックアップします。
・「人づくり」の第1の担い手は無名のスカウトたち
・仁志の移籍に対する世間の誤解を解く(詳細は、人気ブログランキング野球部門でもおなじみの「DIMEの日記」さんのところで)
・ハートの強い選手が欲しい。ここだけが鍛えられない(尾花コーチ)、清武氏が印象に残っているのは元木大介。
・FA権取得までの期間を短縮することと、保留権を違法なものとしてなくすということは決定的に異なる
・「勝負」(妥協の余地のない世界)と「興行」(相互扶助)の二面性の両立の難しさ
・「球団支店論」(12球団はひとつの会社のようなもので、ドラフトは配属支店を決めるようなもの)には違和感あり。どの球団に入るかで選手の運命は変わってくる。
⇒このあたりの詳しいことは前出の「DIMEの日記」さんの本書に対する別の所感エントリーにて
・多くのスポーツ記者たちには裏取りをするという習慣がない。自分の書いた原稿がどう紙面化されたのかすら確認する人が少ない。(特に某夕刊紙)
・選手が大成するかどうかは下積みの努力にかかっている。
・笹本査定部長(現役時代:阪神−阪急−巨人に在籍)によれば、応援半被やレプリカユニの着こなしについて、
阪神ファン⇒行きは着て球場に来る。勝てばそのままの格好で帰り、負ければ脱いで帰宅
ヤクルトファン⇒行きも帰りも着たまま
巨人ファン⇒球場内でしか着ない
という傾向があるということについて、巨人はファンも紳士・淑女だとしめくくる。
⇒巨人ファンについては合ってるけど、東京ドームに来る人しかみてませんか?笹本さん。。。
・野球の神様はきちんと見ている。
(2007年9月9日巨人−阪神戦でのシーツのスンヨプのかかとふんずけ事件。ここで巨人は負けたけど、同9月19日の甲子園でのボーグルソンが内海の頭部への死球危険球退場のときは勝っている。)
・見栄を捨てるのに2年半を要した。
・吉村二軍監督(当時)
藤田、長嶋、王、原監督から学んだ指導者としての三カ条
1.言葉
〜相手にきちんと伝わるように心がける。ただ言うだけではなく、理解させるように努力する。
2.時間
〜相手の都合に合わせてあげる。貴重な時間を共有しているという意識を常に忘れないようにする。
3.行動
〜自分から動く。一緒に体を動かし、汗をかかなければ、指導や言葉に説得力が伴わない。
・選手と球団との間でもっとも大事なことはリスペクト(尊重)しあうこと
・トヨタのジャイアンツキャンプに参加した中堅社員から、球界には「中長期計画」が欠落していることに気付かされる
・補強を外から批判されている間に若手は育っている
・日本のキャンプは球場内外とも修行の場
・官に保護され、投資ファンドの元締めが球団を経営する大リーグ。日本はそうでないからユニフォーム広告も必要になってくるのは認めつつも、巨人のユニはつけたくない。
・ポジションは奪い、奪われ、彼らは今ここにいる(原監督)
・アラン・S・ゴールドバーク博士「選手が絶好調の時の七つの心理的特徴」
1.情熱と楽しみ、2.自分への強い自信、3.試合の過程への集中、4.回復力、5.チャレンジ精神、6.無心でプレーする、7.試合中のリラックス
・佐藤雅幸専修大学教授「勝つためのスポーツ心理学」
成功するアスリートの6つの法則
1.その競技がこころから好き
2.素直。固定観念にとらわれず、聞く耳を持っている
3.感謝する心を持っていること。
4.謙虚であること。もっと進化したいという気持ちが強く、努力を惜しまない。
5.誰よりも自分の能力を信じていること
6.今の努力が自分の人生にどのような意味があるのかという哲学を持っていること
・2008.5.16号 ラミレスのホームラン性の当たりをレフトスタンドにいた阪神ファンらしき人にたたき落とされた件。「神の手」なんてとんでもないという批判も多かった。阪神ファン侮りがたしとまとめてます
⇒清武さんも阪神の公式サイトのBBS見とるのか。。。敵ながらあっぱれや。。。
・コーチの仕事は待つこと(内田コーチ)
・「ホームランをねらえ」と声をかけることで大きく構えさせることも必要
・台湾のプロ野球の危機。選手の国外流出もさることながら、野球賭博&八百長疑惑の件で台湾のハイテク企業が引いている。
・監督は眠れない
・ファームの公式戦が少な過ぎて、使ってみるというチャンスを与えられない⇒巨人にも三軍を作りたい。その前にチャレンジマッチを増やしたい。
・清武氏の友人からのメールの紹介
「田澤が直に大リーグにいってしまったのは残念だが、日本の野球界にもattractiveness(吸引力、魅力)を取り戻して欲しい」
・日本がWBCの優勝の余韻に浸っている間に、韓国では失敗を教訓に五輪対策を練っていた。ダルビッシュが一番脅威だったが、韓国戦に出てこなくて安心した。国民的は不調でも、最後には結果を出してくれると信じて試合に使った。
・言葉の使い方は大切。
・阪神元監督の吉田義男氏:「人は失敗して覚える」と新人時代松木監督に辛抱強くつかわれここまで来た
・原監督「どんなに強気に見える選手でも弱いものです。強気と弱気とすれすれのところで選手は勝負に生きている」
・「本当に運を良くしようと思ったら、とことん努力すべきであろう」とは多くの人が言っていること
<著者プロフィール>
清武英利/キヨタケ・ヒデトシ
1950(昭和25)年、宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、読売新聞社に入社。中部本社(現・中部支社)社会部長、東京本社編集委員、運動部長などを経て、2004k平成16)年8月より読売巨人軍球団代表兼編成本部長。
読んでみても、「一見いかにももっともらしいが、実に巧みに、ジャイアンツにとって都合のいいというだけのことを、さも球界全体を憂えての提言であるかのように見せかけているな」と感じることがしばしばですね。
そういう見方もありますね。
コメントありがとうございます。
確かに、清武氏は歴代の巨人フロントに比べればバランス感覚のある方だとは思いますが、「巨人が球界の盟主でなくてはいけない」と基軸からは離れてはいないでしょうね。
>ジャイアンツが獲得に動かず、他チームでその後に主力になった選手達のリスト
・巨人 自前で「第2の青木・赤星」(産経)
http://sankei.jp.msn.com/sports/baseball/090115/bbl0901151639001-n1.htm
の記事のことですね。盟主球団のお手並み拝見といったところです。